7割伝われば御の字。完璧を捨てた文書が小さな組織を救う
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こんにちは、Lenz 代表・神守です。
Lenzは、私を含めてたった3人の小さな組織。
基本的に常にアクティブなのは私のみ。さらに外部プロジェクトにスタッフとしてアサインされる日々を送っています。
先日、自社サイトを私自身合間をぬってリニューアルしました。
その時、割としっかり目の仕様書を残しました。
正直に言うと、「ドキュメント作成に時間を割くのはもったいない」と考えていました。
今回は、小さな組織の代表がなぜ今さら仕様書を書いたのか、そこから見えた「文書を残す」という重要さに気づいたことについてお話しします。
代表自らがドキュメントを書くリアル
「代表自らがそこまで細かい仕様書を書くなんて、会社が小さくてリソースがないから仕方なくやってるんでしょ?」と思われるかもしれません。
結論から言うと、その通りです。
実質1人で回している組織ですから、誰かが代わりにキレイなドキュメントを作ってくれるわけではありません。AI に手伝ってもらうものの、最終チェックは自分がやる。
自分が動かなければ、何も残らないのが現実です。
しかし、実際に書き終えてみると、これは単に「リソースがないから仕方なくやった作業」ではないと感じるようになりました。
リソースが限られている小さな組織だからこそ、むしろ大企業以上に「やる価値」があるのです。
なぜか、
- 小さな組織における「属人化」という致命的なリスク
- 他社プロジェクトで言った言わないのリスク
- 自らの忘却のリスク
3つの観点でまとめます。
小さな組織における「属人化」の致命的なリスク
大企業における「属人化」は業務の遅延を生む原因になりますが、私たちの規模における属人化は、会社機能の完全停止を意味します。実質1人で動かしている以上、担当者の不在を他人がカバーすることは物理的に不可能。
もし明日、私が不慮の事故に遭ったり、体調を崩して動けなくなったらどうなるか。他の2人はサイトのソースコードを開くことすらできず、連携している外部APIの仕様もわからないまま、ただ立ち尽くすことになります。それは組織として、あまりにも脆弱です。
思えば昔、私がまだ美容インストラクターとして働いていた頃も同じような状況がありました。私の子どもが病気になっても、現場を代わってくれるスタッフがいないのです。
当時勤めていたのは、『個』が異常に強い会社でした。誰一人として、誰かの代わりができません。つまり、誰か一人でも欠けたら、その人が担当するサービスは二度と提供できなくなる。それは大きな機会損失です。
これはIT業界でも全く同じです。
属人化のリスク〜「1分の1」が動けなくなったときの恐怖〜
特定の業務を1人の担当者しか把握しておらず、バックアップがゼロの状態。代替要員がいない小さな組織では、その1人が動けなくなった瞬間に、事業やサービスが完全にストップするリスクと常に隣り合わせになります。
他社プロジェクトで痛感する「自分は覚えていても、他人は忘れる」という現実
私は自社の経営だけでなく、他社の外部プロジェクトにスタッフとしてアサインされる機会も少なくありません。そこで何度も遭遇するのが、「記憶のギャップ」です。
プロジェクトの全体像や、過去の細かい仕様変更の経緯について、自分は深く関わってるので鮮明に覚えている事が多いです。
ところが、他のメンバーはキレイさっぱりに忘れている。
こうした場面が頻繁に起こります。
もちろん、周りのメンバーに悪気があるわけではありません。誰もが自身のメイン業務や複数の案件を抱えており、人間の脳のキャパシティには限界があるからです。忘れてしまうのは、不誠実だからではなく「当たり前」のことです。
「前にも口頭で伝えたから覚えているだろう」は、ビジネスの現場では高確率でないと思ったほうがいい。
だからこそ、「周りは忘れるものである」という前提に立つ。
誰がいつ見ても一瞬で当時の文脈を思い出せる「共通の記憶」として文書を残すことは、外部スタッフとしても安全ですし、経営者としても重要です。
システムよりも脆い「人間の記憶力」
私自身、記憶力には強く自信がある方です。しかし、過信は禁物です。
脳は忘れるどころか、科学的にもあっさりと違う記憶とすり替える臓器です。未来の自分もまた、例外なく忘れたり記憶違いを起こすと肝に銘じておくほうがよい。
現場にいて実感するのは、「過去の自分が書いたコード」は、数ヶ月も経てば「他人のコード」と変わりません。
今回リニューアルを進める中で1か月ほど作業できない期間がありました。 正直に白状すると、すでに細かい仕様を忘れていました。
残しておいた細かい仕様書やGitのログが、リニューアルを再開させる命綱となりました。
人間は数ヶ月で忘れる生き物であると認め、ドキュメントに記憶のバックアップを取る。そこから本当の効率化が始まります。
文書を残すことで得られる、3つの実利
属人化、他人の忘却、自分の忘却の3つのリスクの対策として文書を残すことは、一見手間に見えて、限られたリソースの最大化に直結します。特に実質1人で動く私のような環境において、文書化は次のような3つの価値があります。
1. 「言った言わない」を防ぐエビデンス(証拠)の確保
実際、他社のメンバーから「ここ、以前どうしてこうなったんでしたっけ?」としょっちゅう聞かれます。
しかし、手元にエビデンスやログが残っていれば 1 秒で提示できます。
人間の曖昧な記憶は曖昧なもの。
「こうだったはず」「いや、違ったはず」という不毛な議論に時間を溶かす必要がなくなります。文書を残すことは、お互いの記憶のズレを即座に修正するための「確実な証拠」を持っておくということです。
2. 風化した記憶を呼び覚ますトリガー
実質アクティブなのが私1人の環境では、あるプロジェクトに集中している間、他に関する記憶は少しずつ薄れていきます。
過去のプロジェクトなんてとっくに記憶が風化してしまい、ソースコードからだけでは読み解けません。
何か対応が必要になったとき、過去のログや文書が何よりも頼りになる。
だからこそ、安心して目の前の外部案件にリソースを割くことができます。
3. いつでも新しい仲間を迎え入れられる土台
将来、組織を拡張して新しいメンバーを迎え入れる際、口頭で1から10まで説明するオンボーディングコストを最小限に抑えられます。「これを見ておいて」と言える土台があるだけで、チームの拡張性が高まります。
今まで大小中企業からスタートアップまでジョブホッピングしてきましたが、文書が皆無な会社は、人の出入りが多かった印象があります。
ドキュメントがもたらす「作成中」と「完成後」の2つの価値
家を買う時、借りる時必ず間取りを見ますよね?
弊社 Lenz 公式 サイト全体の仕様書は、サイトがどうなっているかがよく分かるようにしました。
全体図がパッと見てわかるため、万が一サイトが表示されないなどのトラブルが起きたときにも、「どこに原因があるか」の目星を1秒でつけられます。
【書いている最中】AIとの壁打ちによる「想いの棚卸し」
実は、ドキュメントを書いている最中も、自分自身の「設計の意図」や「ものづくりへの想い」を改めて棚卸しする貴重な時間になります。
実際にはAIに粗削りな内容を投げ、壁打ちしながら文字に落とし込んでいるのですが、そのプロセスそのものが、ぼんやりしていた頭の中をシャープにし、アイデアや設計の整理に繋がります。
今回、弊社サイトに追加したいくつかのギミックも、この棚卸しによって目的が明確になりました。
- 記事の『読了目安時間』や『読書進捗バー』の計算ルール:
そもそも今回サイトリニューアルに踏み切ったのは、記事をしっかりと読んでほしいから、つまり「Lenzの想い」を世の中にちゃんと発信したいと考えたからです。読了の目安や現在の進捗状況が視覚的にわかれば、読んでくれているユーザーの負担を減らし、 より寄り添うこと ※ ができると考え、このルールを設計しました。
※ 『他者に寄り添う』は弊社の経営理念の一つです。 - ダークモードと切り替え時のチラつき防止策:
ダークモードを搭載したのも、ブルーライトを減らしてユーザーの目の負担を軽減するためです。さらに、モードが切り替わる際の一瞬の不快なチラつき(画面がピカッと白く光る現象)も、ストレスを感じさせないために徹底的に抑え込んでいます。
【書き終えた後】未来の決断を迷わせない「指針」
これらの「実装理由」のログを残すのは、今のためだけではありません。
数年後、おそらくまた次のリニューアルを迎える時が来ます。その際、当時の判断の理由が文書として残っていれば、
- 「この機能はもう役割を終えたから削ぎ落とすか」
- 「まだ必要だから継続実装するか」
- 「さらに向上させるか」
という、次の一歩の正しい判断に必ず繋がります。
結論:記憶ではなく、事実を未来へ繋ぐ
少数の組織だから、また外部の現場を飛び回る身だから、
「ドキュメントを書く時間があるなら、1歩でも前に進む作業をしたい」
気持ちは痛いほど分かります。
日々リソースとの戦いである現場において、仕様書づくりは一見、遠回りに見えるかもしれません。
しかし、コードはGitHubに残せても、私たちが「なぜそれを作ったのか」という当時の記憶や意図は、文字にして残さない限り、瞬時に薄れて消えていきます。
人間の記憶ほど儚いものはありません。
未来のチームのため、そして何より、数ヶ月後にすべてを忘れている「未来の自分」のために、淡々とバックアップを取る。
完璧な書類は必要ありません。後から自分や周りの人が見返して、当時の文脈が7割理解できれば御の字です。その地道なログの積み重ねこそが、少数精鋭の組織を最も強く、視界をクリアに、そして安全に歩めるロードマップとなります。